ソロ楽曲の温かく大地に根ざしたような作風に対し、1980年代に一世を風靡したロックバンド・安全地帯における玉置浩二さんの歌は、都会の孤独や男女の機微を鋭く切り取る「妖艶さと緊張感」に満ちています。北海道・旭川で結成された彼らが全国区のスターへと駆け上がる契機となったのが、1983年の『ワインレッドの心』でした。
この楽曲で作詞を手掛けたのが、安全地帯がバックバンドを務めていた師匠格の井上陽水さんです。陽水さんが紡ぐ少し退廃的で大人の色気漂う言葉と、玉置さんが生み出す哀愁を帯びたマイナーコードのメロディが融合し、当時の歌謡界に巨大なインパクトを与えました。続く『恋の予感』(作詞:井上陽水、作曲:玉置浩二)では、繊細なピアニッシモ(弱音)のコントロールが極限まで研ぎ澄まされ、THE FIRST TIMESが発表した2026年の「秋の歌・定番&人気50曲」などの企画でも、時代を超えて聴き継がれるスタンダードナンバーとして選出されています。
そして、この2人の天才が正面からぶつかり合った歴史的遺産が、1986年神宮球場のジョイントコンサートで初披露された『夏の終りのハーモニー』です。2026年9月放送のNHK『SONGS』80年代名曲集でもその貴重映像がラインナップに名を連ねましたが、陽水さんの硬質で伸びやかなハイトーンと、玉置さんの柔らかく包み込むようなチェストボイス・ファルセットが重なり合う瞬間は、何度聴いても鳥肌が立ちます。