『渡る世間は鬼ばかり』を象徴する激震地といえば、東京都江東区の商店街に佇む中華料理幸楽です。次女・小島五月が嫁いだこの店は、日本のテレビドラマ史上最も苛烈な嫁姑問題の舞台となりました。
姑の小島キミ(赤木春恵)は、絶対的な権力者として五月を徹底的に下働き扱いし、五月の夫・勇(角野卓造)は母と妻の板挟みになって事なかれ主義を貫くばかり。さらに拍車をかけたのが、小島家の二人の娘、久子(沢田雅美)と邦子(東てる美)という小姑たちの存在でした。彼女たちは実家にトラブルや経済的困窮が訪れるたびに幸楽へ押し寄せ、五月の労働を軽視しながら「店の財産は小島家のもの」と強硬に主張し続けたのです。
視聴者の誰もが固唾を呑んで見守ったのが、「幸楽の土地と遺産をめぐる争奪戦」でした。キミが脳梗塞で倒れ介護が必要になった際、あからさまに介護を忌避した小姑たちに対し、五月は献身的な介護を引き受けました。結果としてキミは五月に心を開きかけますが、キミの遺産(不動産および預貯金)を巡る争いは泥沼化します。最終的に、店を改装・法人化するプロセスや遺産分割協議を経て、長男である勇と五月が店の実質的経営権を死守。久子や邦子には一定の金銭的分配や独立資金を融通する形で一応の幕引きが図られました。
しかし、平和は長く続きませんでした。シリーズ後半からスペシャルにかけて、息子・眞(えなりかずき)が妻・貴子(清水由紀)を迎えたことで、今度は「かつて被害者だった五月が、無自覚のうちに口うるさい姑になってしまう」という世代間連鎖が描かれたのです。長年耐え忍んだ立場から一転して若夫婦のプライベートに過剰介入してしまう五月の心理は、家族社会学における「役割期待の歪み」を克明に浮き彫りにしました。