音楽解説の場では「丸サ進行=Just The Two of Us進行」と一括りに語られることが少なくありません。しかし、1981年にリリースされたグローヴァー・ワシントン・ジュニア(Grover Washington, Jr.)とビル・ウィザースによる歴史的名曲『Just The Two of Us』と、椎名林檎の『丸の内サディスティック』を詳細に聴き比べると、そこには音楽史の変遷とJ-POPならではのローカライズが見えてきます。
| 比較項目 | Just The Two of Us進行(原典) | 丸サ進行(J-POP進化形) |
|---|---|---|
| 代表的な起源・発表年 | グローヴァー・ワシントン・Jr.(1981年) | 椎名林檎『丸の内サディスティック』(1999年) |
| Cキー換算の基本コード | FM7, E7, Am7, Gm7, C7(または G#m7, C#7 的な半音進行) | FM7, E7, Am7, C7(サビでは Am7, D7 等の変化も) |
| リズムとグルーヴの質感 | メロウでレイドバックした16ビート・R&Bグルーヴ | シャッフル(跳ねたビート)とロック・歌謡曲的なドライブ感 |
| メロディの乗せ方 | ペンタトニックを基調としたソウルフルな歌唱 | 言葉数を詰め込んだ日本語の譜割りとキャッチーな跳躍 |
原典である『Just The Two of Us』(原曲キーはD♭メジャー/B♭マイナー)では、3小節目のトニックマイナー(B♭m7)から1小節目のサブドミナント(G♭M7)へ戻る際、「A♭m7, D♭7」というツーファイブに加えて、時に半音上から滑り込むようなクロマチック(半音階)のアプローチが強く意識されています。全体として、フェンダー・ローズ(エレクトリック・ピアノ)の柔らかい音色を活かした、夜のラウンジに似合うアダルトなR&B(ブラック・コンテンポラリー)の文脈で作られています。
対して、椎名林檎が構築した「丸サ進行」は、編曲を手掛けた亀田誠治のうねるようなベースラインと、河村“カースケ”智康の跳ねたドラムビートによって、より攻撃的でロックな推進力を持っています。コード面でも4小節目をシンプルに「E♭7(I7)」で押し切ったり、サビの後半では「Cm7, F7(VIm7, II7)」という別のセカンダリードミナントを投入して展開に山場を作ったりと、日本の歌謡曲らしいドラマチックな起承転結が組み込まれているのが大きな特徴です。