煉獄杏寿郎の面白さは、単に「おかしなキャラを作ろうとした」結果ではありません。物語論の観点から見ると、原作者・吾峠呼世晴先生による緻密な感情誘導の計算が働いています。
人間は、完璧で隙のない人物に対して敬意を抱く一方で、心理的な距離(警戒心)を感じがちです。しかし、少しピントのズレたユーモアや天然な振る舞いを見せられると、一気に親愛の情を抱きます。前半で読者をクスリと笑わせ、「ちょっと変わった気の良い先輩」として懐に入り込ませたからこそ、後半の猗窩座戦で見せる圧倒的な強さと、命を賭して後輩を守り抜く姿勢が、胸を締め付けるほどの「ギャップ萌え」と感動へ昇華されたのです。
もし彼が終始冷徹なエリート剣士であったなら、観客はここまで彼の死に涙しなかったでしょう。笑いを通じて感情の振れ幅を最大化させておくという、少年漫画の王道にして最高峰の構成美がここにあります。